
国指定登録有形文化財「旧松原家住宅」の魅力
お茶のまち・上狛に、百年超の屋敷が扉を開く
登録有形文化財「旧松原家住宅」の、新しい使い手を探しています
京都府の南、木津川市。JR奈良線の上狛(かみこま)に降り立つと、木津川の流れに抱かれるようにして、昔ながらの町並みが静かに広がっています。
実はこのまち、かつて「上狛茶問屋街」として全国に名を馳せた、お茶のまちでした。
最盛期には150軒もの茶問屋が軒を連ね、南山城や和束の茶園から集められた茶葉がここで仕上げられ、木津川から淀川を下り、神戸港からを渡っていったといいます。
2015年には、この一帯が日本遺産「日本茶800年の歴史散歩」の構成資産に認定されました。
そんな歴史あるまちの一角に、ひときわ堂々とした佇まいを見せる屋敷があります。
今回ご紹介する、登録有形文化財「旧松原家住宅」——地元では「松原邸」の名で親しまれてきた建物です。
まず、長屋門が出迎えてくれる


道路に面して構えるのは、長屋門。かつてはこの長屋に使用人たちが暮らし、屋敷の守り手であり、働き手の住まいであり、まさにこの家の「顔」でした。いま、こうした長屋門が当時の姿で残る屋敷は、地方都市でも数えるほどしかありません。
長屋門をくぐれば、約600坪の屋敷構えが目の前に広がります。正面に母屋、北に衣装蔵、東に表蔵。
さらに米蔵を合わせ、敷地内にはなんと五棟もの立派な蔵が残っています。
長屋門、母屋、蔵、庭——江戸から明治へと続く「屋敷のかたち」が、ほぼ完全に残っていることが、この物件のいちばんの価値かもしれません。
外観に、惚れる

母屋は、重厚な瓦葺きの屋根に、黄土色の土壁。屋根裏部屋にぽっかりと開いた、ふたつの虫籠窓(むしこまど)が印象的です。
明治42年、1909年の建築。当地の有力農家の邸宅として建てられ、和の伝統にほんのり洋の感覚を織り交ぜた、当時としてはモダンな意匠が随所に光ります。
土間のかまど、この家の心臓部


一歩中に入ると、広々とした土間。レンガとタイルで丁寧に組まれた大きなかまどが迎えてくれます。
いくつもの竈が横に並び、太い煙突が天高く伸びるさまは、いまでも湯気が立ち上がってくるよう。
かつてここでは、家族と使用人、大勢の人のために日々食事が作られていたのでしょう。
むき出しの太い梁が走る天井に、高い窓から差し込む光。百年分の暮らしの記憶が、ふっとよみがえるような空間です。
炊き出しや料理教室の舞台に、カフェのシンボルに——使い方を考えるだけで、わくわくが止まりません。
畳がどこまでも続く、格式高い広間


土間から上がると、畳敷きの部屋が一直線に連なる「広間」が現れます。
襖をすべて開け放てば、視線は奥の奥まで抜けていき、この屋敷の奥行きの深さに改めて驚かされます。
天井の格子意匠、格式高い照明、欄間の透かし彫り、書院障子。一つひとつの造作に、往時の職人の仕事を見ることができます。
広間の周囲には、ぐるりと廊下が巡っています。しかもこの廊下、全面ガラス戸。
廊下に足を踏み入れれば、そこから庭がすっと見渡せ、光がふんだんに差し込みます。
畳の間を囲むように光と庭が回り込む——この贅沢なつくりこそ、格式ある屋敷ならではの見せ場です。
研修合宿の会場に、展示会や小さなコンサートに、大勢での食事会に。「みんなで集まる」心地よさを、この空間は教えてくれます。
庭に面した座敷も見逃せません。大きなガラス戸と障子から自然光がたっぷり入り、障子越しの庭の緑は、季節ごとに表情を変える一枚の絵のよう。お茶をいただきながら過ごせば、忙しない日常が少しだけ遠のきます。

五つの蔵は、五つの可能性

表蔵、衣装蔵、米蔵、道具蔵——白漆喰と黒のコントラストが美しい蔵が五棟。
重厚な扉、中には現在はかつて農業や精米に使われていた道具が残されています。古き良き日本の暮らしの風景が、そのまま残っています。
蔵ひとつとっても、ギャラリーに、隠れ家のようなバーに、静かな書斎に、ショールームに。
カフェは母屋で、ギャラリーは衣装蔵、宿は長屋門——複合的な拠点づくりを考えている方にとって、これほど恵まれた条件はありません。
この屋敷について

所在地は京都府木津川市山城町上狛。JR奈良線・上狛駅から徒歩圏です。敷地は約600坪、母屋は約228㎡。主
屋・長屋門・蔵四棟・茶室・庭からなる、稀有な屋敷構えです。
使い方としては、ひとつめは、企業の保養所や研修施設。近くには老舗茶寮の本拠地もあり、「自然の中でじっくり語り合う合宿」の需要が高まっています。同じ釜の飯を囲む——かまどのある屋敷は、その言葉がこれほど似合う場所もありません。
ふたつめは、茶カフェや体験工房。茶室を活かしたお点前体験、茶問屋街の歴史とつながるお茶の発信拠点に。
みっつめは、アトリエやギャラリー、フォトスタジオ。蔵や和室をものづくりと発表の場に。地域のクリエイターたちと一緒に、この屋敷を拠点にする——そんな未来も描けます。
さいごに

上狛は、観光客で賑わうまちではありません。でも、だからこそ。「わざわざ行く価値のある場所」になれる余地が、この屋敷にはあります。長屋門、主屋、四つの蔵、茶室——百年かけて丁寧に守られてきた「屋敷まるごと」が、いま、静かに次の使い手を待っています。
百年の時間を、次の百年へ。
一緒に紡いでくださる方を、お待ちしています。まずは一度、見にいらしてください。
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